シャロンは土曜日の夜サンフランシスコへやって来て月曜日の朝帰る1人の男を尾行するという依頼を受けた。その男フランク・ウィルコンスンは植物園や園芸ショップばかりを訪れ、誰かを探しているようにみえる。そしてこれといった展開もなく調査を終え報告書を持って行くと、依頼人ルディー・ゴールディングがレンジの角に頭をぶつけて死んでいた。他殺か?自己か?そして第一発見者と思われるひとりの女性がその場から逃げ去ってしまう。
カーナンバーから追跡した車の持ち主は、オールソウルズの顧客ヴィッキー・カッシュマンだった。ヴィッキーとジュリー・カッシュマン夫妻の住む城のような豪邸に訪れたシャロンは意外にもヴィッキーの歓迎を受ける。ただし、自分の車であることは認めるが、その日は自分も出かけないし車を人に貸した覚えもないと主張する。
ウィルコンスンの住むホリスターを訪れたシャロンは自動車事故の調査員を装って周囲の人間とウィルコンスン本人に聞き込み調査を始める。ウィルコンスンはバーニング・オーク牧場で働いている。仕事を休むようなこともなく、真面目に暮らしている。農場のオーナー、ハーラン・ジョンストンは2年前に若い後妻が家を出て行って以来酒びたりの状態になり、農場は事実上ウィルコンスンが管理している。
町ではウィルコンスンとジョンストンの若い後妻が不倫していたと噂されていた。どうやらその若い後妻・アイリーン・ラッサーはゴールディングの殺人現場にいた謎の女性のようだ。
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マーシャ・マラーはこれまでもマイノリティーの問題をさり気なくストーリーに絡めてきた。今回はマイノリティーというよりも女性。それも妻という存在の危うさについて書いている。これまでこんなにクローズアップした書き方はしなかったんじゃないだろうか。
まるで城のような豪邸で暮し、家事や雑用はメイドがやってくれる。自分は市民運動のリーダー的存在でもあり生き甲斐もありそうなのに、夫の女性関係に始終やきもきしてヒステリックになり、酒とカウンセリングに頼るヴィッキー。
毎日毎日6人の子ども達の面倒に追われ、夫は週に1日だけの休暇もサンフランシスコへ行ってしまい、何をしているのかもわからない。自分はウィルコンスンの妻でランディーの母親でしかない。時にやるせなくなってこっそりと納屋で煙草をするジェーン。
大学の園芸学の教授というキャリアを持ちながら、結婚した男が嫉妬深く横暴であったため世間からも遠ざけられ行き場のない思いをしたアイリーン。
新しく雇ったシャロンの助手ラエも常に大学生の夫に振り回され、夫のために仕事をサボることもしばしば。ラエの能力をかっているものの、シャロンはほとほと困り果てていた。オールソウルズの上司ハンクと同僚のアン・メリーも生活感覚の違いで離婚の危機が訪れている。
シャロン自身はドンとはきっぱり別れたようだが、ドンが放送局のアナウンサーと親しそうなのを何気に気になっているようだ。どうやらこちらも生活感覚の相違、違いすぎるためにお互い魅力を感じ、そして結局合わないことに気づいたと自身分析している。グレッグへの未練は今はないみたいだ。
シャロン、アイリーン、ヴィッキー、ジェーン。奇しくも同世代の女性達。みなそれぞれ愛情の対象を求め、愛情を注ぎながらも自分の立ち居地、存在理由を自分に問う。愛されたいと思うことと自分らしくありたいと思うことは両立できないのだろうか。
「私が欲しかったのは、これこそが私のものと言えるような何か。それを求めてはいかなかったのかしら」
最後にある人が投げかけたことば。誰がどういうシチュエーションで言ったのかは書かずにおこう。
本書は『殺意の日曜日』と題して日本語版が徳間文庫から出ている。英語を読み終えた直後に呼んでみたが・・・どうもいけない。マーシャ・マラーが日本で売れなかったのはいい翻訳者にめぐり合えなかったことも一因するのかと思った。今回の翻訳、英語は誰に対しても同じようなことばで話す言語だけれど、日本語に置き換える時は是非待遇表現に気をつけてほしい。敬語で話すべき相手とフランクに話す相手はしっかりと分けるべきだ。シャロンが同じ相手に向かって敬語のような話し方をしたりタメ口を聞いたりしていてはちぐはぐしてしまう。
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