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『パリの胃袋』

Posted by pigmon2 on 07.2009 読書 0 comments 0 trackback
 『居酒屋』ジェルヴェーズのお姉さん、リザを中心としたパリの一角に住む人々の物語です。表題から察するように様々な食材のオンパレード。とりわけクニュの作る豚の血が入った黒いソーセージ、ブーダンはどんなものだか興味をそそられる。
 食材とともににおいを感じる。鮮魚市場の生魚のにおい、クニュの厨房の豚肉のにおい、青果市場の野菜のにおい、ラ・サリエットが売る果物のにおい、カディヌの売るリラやスミレなどの花々のにおい、ルクール夫人の掻き混ぜるバターのにおい、それから酒場の退廃的なアルコールのにおい。

 フランスでは一口に肉屋といっても牛肉を専門に扱う店、この物語の舞台となった豚肉と豚肉加工食品を扱うシャリュキュトリという店、鶏肉や家禽類を扱う店、馬肉の店などに別れているというからさすがグルメ大国と感心してしまう。シャリュキュトリはハムやソーセージなどを作って売っているというからデリカテッセンみたいなものかと思われる。

 本書でルーゴン=マッカール家系の人物はリザとその娘のポーリーヌ、それからジェルヴェーズの長男クロードだけが登場する。作中リザはパリに従兄サッカールがいるがまったく付き合いがないことを周囲に洩らしている。サッカールはお金を儲けることしか考えていないので価値観が合わないというようなことを言っている。またクロードは伯母=リザは自分の母=ジェルヴェーズを好いていないと話している。一番の理由はジェルヴェーズが雇われ労働者と結婚したことらしい。

 リザはジェルヴェーズと異なり世渡り上手なお利巧さんだ。ついでに作中何度も美人のリザという形容詞が宛がわれている。どういう人間に近づいたら自分が得をし、反対に避けるべき人間もわきまえている。かといって決して嫌味な人間でもない。苦労によって投げやりになる人間と抜け目なく処世術を身につける人間がいるが、彼女は明らかに後者。マッカール家の中ではおそらく一番生活水準の高い人生をおくったと思われる。

 ルーゴン=マッカール家系の人物で言えばリザが主人公だが、この物語のほんとうの主人公はリザの義兄にあたるフロラン。ここで非常に面白いとがある。リザとその夫クニュはこの当時30歳。そうするとクニュの兄フロランは年が少し離れているので30代半ば、どちらかというと30代後半かと思われる。40歳を過ぎているガヴァールと友人になるのはわからなくもないが、リザの甥にあたるクロードとも対等な友達になっている。東洋人に比べ西洋人は年齢の上下にあまりこだわらないが、その感覚はちょっと羨ましく思う。

 もうひとつ面白いのは、リザの娘ポーリーヌが当時6歳なのに妹の子クロードは16歳。ちょっと首を傾げてしまう。よくよく家系樹を見てみると、ジェルヴェーズは14歳でクロードを生んでいる。しかも10代のうちに3人の息子達をすべて婚外子として生んでいる。ちょっと設定に無理を感じなくも無いが、この状況だとジェルヴェーズは後先構わず行動してしまう尻軽女みたいでリザがよく思わないのも頷ける。

 さて、物語は徒刑囚として島流しされたフロランが脱獄してパリに戻ってくる所からはじまる。そもそも彼は真面目で穏やかで犯罪などとは無縁の人物なんだが無実の罪を着せられて流刑に処せられてしまう。やっとパリに辿り着いたときには空腹で死にそうなのにもかかわらず、なにか欲しい物はないかと懇意に言ってくれた野菜売りの申し出も断るような気位の高さがある。空腹でしょうがないのに市場の食材をただ眺めているフロランを脇に野菜のヴィジュアル的な美しさを淡々と語る画家のクロードが面白い。

 弟のところに身を寄せたフロランはやがて市場の鮮魚塔の検査官の職につきパリでの生活をはじめる。暮らしに慣れてくるとガヴァールたちの政治運動に参加するようになる。政治運動といっても居酒屋で無駄口をたたきあっているだけなのだが、フロランにとっては自分の過去の蓄積された経験から遊びでは済まされない。やがて共和主義運動のことと共にフロランが脱獄したことが人々の話題に上り、密告されたフロランは運動の首謀者として警察に連行されてしまう。

 男というのは何故か政治の話が好きだ。私の父も大酒呑みだったが、月に1度仕事仲間を家に呼んでは呑んでいた。酒の肴によく政治の話で白熱していたが、
「あなた達がここで何を言っても、世の中少しも変わりはしないよ」
と子ども心に私は思った。どこかの政党の党員になって選挙運動などに参加しているおじさんならいざ知らず、酒の席であれこれ勝手なことわめいてるだけなんだからね。
テレビのワイドショーを見て芸能人の結婚や離婚についてあれこれ言ってるおばさん達と結局は同じだってことに自分たちは気づいていない。

 フロランは高潔というのか馬鹿正直というのか、みすみす損をする羽目に陥ってしまう。時代が安定していたなら人畜無害の「いい人」で通ったものが不安定な世の中故に貧乏くじを引いてしまうなんとも気の毒な人だ。彼を本当に理解したのはクロード、それからリザと対抗している魚屋のラ・ノルマンドとその妹のクレールの3人だけだった。ただし、最後に警察が来たときラ・ノルマンドはフロランと自分たちはなんの関係もないと言い切った。自分と家族を守るためには当然のことなんだが、クレールは最後までそれを許せなかった。クレールもまたフロラン同様不器用な愛すべき人物だ。

 この話には極悪人は出てこない。みんなどこかしらずるいところはあるものの善良な小市民。普通の人達だ。ところがその普通の人達によってフロランはまた無実の罪で捕えられる。ある集団の結束を固めるためには外部に敵を作ることだとよく言われる。閉鎖的な集団の中では誰かを悪者にして、それによって残った人達の結束を固めたりもする。いわゆる村八分。言い換えればフロランひとりがなにもかも悪いのだと生贄にされてしまったのだ。善良な人々の集団とはある意味怖い。

 が頻繁に出てくる話だ。クニュが豚の血と脂肪を入れたソーセージ、ブーダンを作るシーンは印象的だ。フロランもそもそも暴動の間に手に血が付いていたため要注意人物となったため捕らえられてしまった。地下で焼き鳥屋のマルジョランが鳩の血を抜くところを見ていたフロランは気分が悪くなってしまう。生きていくためには何者かの血を犠牲にしなければならない・・・偉そうにしてても人間もまた動物ということか。

 シリーズの他の作品同様、この話にもずるい人達が沢山でてくるが、ただひとりどうにもこうにもわけのわからない人物がいた。居酒屋の店主ルビーグルさん。この人は誰に対しても逆らうことなく親切な態度を示し続ける。ただ、何を考えているのかまったくもってわからない。そもそもガヴァール達が政治の相談をするのに部屋を貸し、挙句弟のとこるにいずらくなったフロランに特別に取り計らったりしている。そんなことをして何の得にもならないのに。

 店に勤めるホステスのローザとただならぬ仲であると周囲はみな思っているのに、少なくともローズは彼を慕っているのに、ラ・ノルマンドへのプロポーズの伝言に行かせる。しかもラ・ノルマンドはフロランに想いを寄せている。本当に何を考えているのか全く持ってわからない。しかし、最後はラ・ノルマンドも彼の申し入れを受け居酒屋の女将として君臨する。

 酒というのは人間に活力を与えると共に堕落させる代表的な代物。カウンターの内側に立って道を踏み外していく人達をただ黙って静かに眺めているだけの居酒屋。作中で最も恐ろしいのはこの人なんじゃないかと、ふと思った。『居酒屋』にも通じるものをここに感じた。
 
 叢書の第3世代残りは『ルーゴン閣下』『パスカル博士』『金銭』『大地』『破壊』。リザの弟ジャンが主人公の『大地』に挑もうかと思ったが、ここでまた『居酒屋』を読み直してみたくなった。 




 
 

  

 
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